育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児または家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)の改正により、2022年4月の施行から、男性の育児休業の取得がさらに身近となってくると予想されます。
これから男性の育児休業がどう変わるのか、また、男性本人はどう対応すべきか。社会学博士・大妻女子大学人間関係学部 准教授の田中俊之氏より解説していただき、男性の育児休業の現況と課題、男性が積極的に育児に関わるために何をすべきなのかを考えていきます。

Your Image【監修・取材先】
田中俊之氏

博士(社会学)
大妻女子大学人間関係学部 准教授

育児中の女性の就労状況を知る

「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業が成立した高度成長期においては、女性は結婚や妊娠とともに会社を辞めて育児に専念するというパターンが多かったのですが、その傾向もだいぶん変化しているようです。

国立社会保障・人口問題研究所が5年ごとに実施している出生動向基本調査の最新報告(2015年実施)によると、第一子出産後に退職する妻の割合は1985~1989年が37.3%、2010~2014年が33.9%で、3.4ポイント減少しています。それに伴い、育児休業(以下、育休)を利用して就業を継続する妻の割合は5.7%から28.3%にまで増えました。また、育休利用なしでの就業継続と合わせると、出産後も退職せずに仕事を続けている妻の割合は38.8%。これは1980年代のおよそ1.6倍です。

妊娠前から仕事をしていない妻の割合も減少しています。女性の就業率自体が上がり、出産を機に退職するのではなく、育休を有効利用して仕事を継続する女性が増えていることが分かります

20年で大きく変わった男女の育児休業取得率

▲厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」より引用

「イクメン」という言葉は今や男性の褒め言葉として定着してきましたが、実際に男性の育休取得率もここ20年で大きく変容しています。

1999年 女性=56.4%  男性=0.42%
2020年 女性=81.6%  男性=12.65%

これを見ると、2020年における女性の育休取得率は1999年の約1.45倍に、男性においては30倍にもなりました。とはいえ、数字を見ても、育休を取るのはまだまだ女性だけという認識が定着していることは否めません。8割を超える女性の育休取得率の高さに対して、男性の取得率は女性の1/7ほどしかない低い数値であることからも分かります。

「男性学」から考える男性の育児休業の必要性

どうして男性にも育休が必要なのでしょうか。
女性の就業有無にかかわらず、男性が家事や育児に当てる時間は非常に短いのが現状です。女性の家事・育児の負担を減らして良好な夫婦関係を築くために、男性の育休取得は非常に重要な役割を果たします。

もうひとつ、子どもの生後1年くらいは、親子の愛着を形成するうえで重要な期間とされています。男性の育休取得は、夫婦関係のみならず親子の関係性にもいい影響を与えることが期待できます。

また、これまで仕事に専念してきた男性が、「親」になることで家庭や地域といった職場以外のコミュニティでの交流を経験し、ものの見方を広げることができるという利点も挙げられます。これは、持続可能な社会の実現が問われている現代において、非常に大切な視点です。

男性の育児休業取得率を上げるための意識改革

男性の育休取得は、企業側の方針だけでなく、男性本人の意識改革も必要です。
例えば、育児の知識をこれでもかと言うほど収集したものの、現実は思い通りにはならず焦ってしまうという方は多いことでしょう。「頭でっかちの育児」では、せっかく育児休業を取得しても有意義なものにはなりません。育児は思い通りにはいかない、仕事とは違うんだという認識を持っておく必要があります。

「育休を取得したのに、自分はそれほど役に立っていない」と感じることもあるかもしれません。そのような場合でも、「子育ては、今日うまくいった方法が明日通用するとは限らない」という気持ちで育児に向き合えるよう、意識改革しておくといいでしょう。

さらに、「男性という『性』がいかに自分の生き方に影響を与えているのか」を知ることも大切です。例えば、「定年退職者」は性別を限定する言葉ではありませんが、イメージする姿は“おじさん”ではないでしょうか?

男女共同参画白書 令和3年版より引用「OECD諸国の女性と男性の就業率の差(令和元(2019)年)」

現代の日本では、多くの女性が育休を取得して職場復帰するようになったものの、『男女共同参画白書 令和3年版』の「OECD諸国の女性と男性の就業率の差(2019年)」を見ると、男女差の就業率の差は先進諸国に比べ日本は13.3%とまだまだ高い状況が続いています。

一方で、男性は定年まで働き続けるのが当たり前という考えはまだまだ根強く、男性自身がそう思い込んでいる場合も多いでしょう。

こういった考えを前提にしていると、常日頃から無意識に「仕事が第一。家事や育児よりも仕事が優先」という態度を見せている、ということも考えられます。

男性という性が自分に与えている影響を認識すると、育休を取得する前から行動変容のきっかけが得られ、さらには、女性の立場に立ってどんな影響が及んでいるのかを考えられる女性視点の思考を持つことにもつながります。

男性の育休取得を前向きに考える

2022年4月より順次施行される改正育児・介護休業法によって、男性の育休取得はより身近になります。育休取得がどう変化するのかを把握したうえで、今後、男性の育休取得がいっそう浸透する社会にしていくためには、男性本人だけでなく、企業も積極的に推進していく姿勢が必要です。

田中氏の講演では、今後、企業が男性の育休取得に積極的に向き合えるような内容をお伝えしています。男性自身、育休取得する当人の周囲、企業担当者など、さまざまな立場における知っておきたいポイントや「男性学」の視点を交えなが解説しており、講演後アンケートで高評価をいただいております。ご興味のある方は、ぜひお問合せください。

田中俊之  たなかとしゆき

博士(社会学) 大妻女子大学人間関係学部 准教授


大学教授・研究者

男性学を主な研究分野とし、日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎると警鐘を鳴らす。多様な生き方を可能にする社会を提言する論客としてメディアでも活躍。また、2022年より育児・介護休業法の改正が行われるのに伴い、改めて本人や周囲が考えるべきポイントを説く。

プランタイトル

育児を知って、社会を変える
~男性が取れば、育休が変わる~

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