「金鳥の夏、日本の夏」でお馴染みの殺虫剤メーカー「金鳥(大日本除虫菊株式会社)」。
蚊取り線香を発明し、インパクトのあるCMでブランディングも成功。
2013年からは、「スベらない商談力」メソッドで数々の企業に旋風を起こした小森康充さんの営業研修を導入することになりました。
その導入の背景、そして導入したことにより、どんな変化があったのか、当時研修担当をしていた金鳥の八橋さんと同社宣伝部の笹岡さん、講師の小森さんにお聞きしました。
老舗企業が抱える問題、そして問題解決のヒントがつまったロングインタビューを2回に分けてお送りします。
前編では、金鳥ブランドに込められた創業者の想い、そしてブランディング成功の秘訣をお伝えします。

大日本除虫菊株式会社 
第二営業部部長 八橋和由さん
1993年に入社。営業部を経て、2006年から2018年までマーケティング部に所属。営業部員の研修を担当。2013年から2017年まで5年連続して小森氏の研修を導入した。
宣伝部 笹岡可奈子さん
2014年に入社。営業部時代に小森氏の講演会に参加。現在は宣伝部に所属する。講師 小森康充さん
P&G営業本部にて初代トレーナーを経験したあと、マックスファクターや日本ロレアルなど外資系会社で20年の営業キャリアを積み、2009年に営業力強化コンサルタントとして独立。営業、リーダー研修の講演では継続依頼が多数。

■目次

100年以上も前からSDGsを体現していた創業者

▲金鳥のマークの変遷(公式サイトより引用)

システムブレーン(以下、SB)  まずは、金鳥というブランドについてお聞きしたいと思います。
「金鳥」というお名前は実は商標であって、社名は「大日本除虫菊株式会社」という名称だそうですね。この商標に込められた想いを教えてください。

八橋   1886年に創業者・上山英一郎がアメリカの植物会社の社長さんから「除虫菊」を紹介してもらって、そこから蚊取り線香の開発が始まるわけですが、その頃に、創業者の信条であった「鶏口牛後」、つまり大きな組織の末端になるより、小さくてもトップになるべきであるという考え方に基づき、「金鳥」という商標を1910年に登録しました。

SB 「 金鳥の夏、日本の夏」はキャッチコピーの先駆けでしたよね。蚊取り線香といえば、「金鳥」というまで定着しています。

八橋  今は、渦巻き型の蚊取り線香は一般的ですが、着想から販売までには何と17年もの月日がかかっているのです。
その理由の一つに、原材料である除虫菊を栽培する農家がすぐに確保できなかったことがありました。創業者が除虫菊という存在を知ってから、周囲の農家に栽培を広めようとするものの、なかなか除虫菊が理解されませんでした。除虫菊がなんぼ良いものだといっても、そんな得体の知れないものを栽培しようとする農家がいなかった。

そこで、創業者は除虫菊の栽培手引書を作って、除虫菊の種子と共に無料配布することにしたんです。除虫菊の普及を目的に全国行脚しながらそのメリットを広めていきました。その甲斐あって、日本の除虫菊生産量は1930年頃、世界一となりました。絹と並んで、日本の輸出品の上位品目にまで上がるようになったのは本当にすごいことだなと思います。

▲創業者が作成した除虫菊の栽培手引書(金鳥提供)

SB そうなんですね。世界一の生産量になることで、貧しい農家も救ったという逸話もお聞きしました。

八橋 創業者は「産業を通じて社会に貢献すべし」を理念とし、自社だけではなく周囲の産業も発展させることを考えていました。今では、この除虫菊は、他国の産業開発にも一役買っています。

SB 今でいうSDGs(持続可能な開発目標)を早くから体現されていたような方だったのですね。

八橋 そこまでは考えていませんでしたが、そこに当てはめていくと、弊社の経営スタイルはSDGsに近いものがあるなと感じます。

SB 渦巻き型蚊取り線香の話に戻しますが、原料を確保できたとなったら、次に製法ですよね?どんな経緯から線香という形にしようと考えたのでしょうか?

八橋 創業者は除虫菊が蚊にも効くというのはわかっていたので、どうやって蚊に効かせればいいかを考えていたそうです。そんな時、仏壇の線香屋の息子さんと同宿になり色々と話をしているうちに、線香に除虫菊を混ぜればいいというアイデアを思いついたと聞いています。線香に除虫菊を混ぜて、棒状の形で製品化することはできました。

SB 最初は棒状だったんですね。

八橋 そうなんですよ。棒状で製品化できたのはよかったんですが、持続時間が短いという欠点がありました。それじゃあ、棒を長くして持続時間を延ばせばよいいと単純に考えてしまいますが、単に棒を長くするだけでは折れやすく、使い勝手も悪く、現実的ではありませんでした。

▲初代の棒状の蚊取り線香(金鳥提供)

そこで、創業者の妻・ゆきがとぐろを巻いた蛇から着想し、渦巻き型にすることを創業者に提案したそうです。渦巻き型は乾燥する時に板にくっついてしまうという欠点があったのですが、それも板を金網に変更することで対処できました。今でも実は金網で乾燥しているんですよ。弊社の蚊取り線香は、和歌山の工場で生産しています。昔と変わらぬ原料と製法を活かしながら、今でも国内生産をしているところが弊社のこだわりです。

▲開発当時、手巻きで巻いて製造していた(金鳥提供)

今は、マットやリキッド、スプレータイプのものと、いろいろと出てきましたが、蚊取り線香の売上は常に安定しています。特に最近は、換気時や屋外では蚊取り線香の方が効果が高いということと、また昨今のキャンプブームにのって、売上は増加している傾向にあります。

一線を画したブランディング力

SB 金鳥といえば、早くからブランディング力にも力を入れていましたね。その代表が、昭和30年代まで出されていた石版刷りのカラーポスターが思い出されます。

▲昭和初期の海外向けポスター。今や美術品としての価値も高い(金鳥提供)

八橋 カラフルなポスターやホーロー看板、新聞広告など、早くから広告には力を入れていました。思えば、あれが、金鳥のマーケティングの起点であるように思われます。


▲「蚊がいなくなるスプレー」のCM。笹野高史さんがいい味を出している

SB その後はインパクトのあるおもしろいCMで、金鳥商品の知名度もかなりアップしていきます。

笹岡 CMに与えられた時間は15秒や30秒と、どの会社さんも同じです。その限られた時間の中で、どれだけたくさんの方に弊社の製品を覚えていただけるか…必死なわけです。その必死さが、“面白いCM”と言っていただける要素になったのではないかと思います。
1966年に桜井センリさん出演のキンチョールCMで流行語となった「ルーチョンキ」という言葉も、撮影現場で桜井さんが「キンチョールは逆さにしたらルーチョンキだよね」と言って、それがおもしろいということでそのまま使われたそうです。今でも、撮影中に出てきたいいアイデアがそのまま採用される、ということは多くあります。CMのクリエーターにとっては、自由度も高く、勝負できるので、(金鳥CMは)やりがいがあるのではないでしょうか。

SB CMには有名な監督も起用されてますよね?

笹岡 2016年に放映された長澤まさみさん出演の金鳥「虫コナーズ」は是枝裕和監督が担当にしていただきました。

八橋 (CM作りでは)商品とセールスポイントだけ伝えて、クリエイターに自由に考えていただいています。細かい演出についてはあまり口出しはしません。

SB クリエーター冥利につきますね。このようなCMの面白路線で、金鳥のイメージはしっかりと定着しています。ブランディングが成功している結果ですよね。

八橋 そうですね。ブランディングがうまくいっていたので、何がなんでも売り込むという営業スタイルではなかった。業界内では比較的おとなしい優等生の営業というポジションでした。
市場環境が年々厳しくなる中、競合他社が、押しの強い営業スタイルで、うちの販売シェアを脅かすようになってきました。当時、私は営業部の研修担当として、営業力強化をミッションとして与えられていました。そんな頃に、小森さんと出会いました。


後編では、小森さんの研修を導入することになった背景、そして研修後の成果について詳しく聞いていきます。後編も引き続きご覧ください。

本記事で紹介している研修プラン
スベらない商談力
元P&Gトップトレーナーが教えるナンバー1営業に勝つ法則

金鳥様が2013~2017年の5年間に採用してきた研修プラン。おとなしかったこれまでの営業の姿勢を「ケンカのできる」姿勢にまで変え、全社の販売シェア向上に貢献した。「商談は、お客様の心の窓を開くことから始まる」という前提のもと、お客様の心の窓を開き、クロージングするためのメソッドを論理的・実践的にわかりやすく紹介している。

 

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