戦争取材と自己責任

藤原亮司 ふじわらりょうじ

ジャーナリスト

想定する対象者

成人一般、学生、教員、マスコミやジャーナリズムや戦争に関心のある方

提供する価値・伝えたい事

イラク戦争やシリア内戦において、ジャーナリストや人道支援家が武装組織などに拉致されたり、殺害されたりという事態が続いた。ロシアによるウクライナ侵攻でも、複数名のジャーナリストが殺害されている。
特にシリアでは、各国のジャーナリストが多数拉致され、解放された者もいれば殺害された者もいる。日本人ジャーナリストの山本美香氏は取材中に銃撃され死亡、後藤健二氏は拉致されたのちに殺害され、安田純平氏は3年4カ月もの期間にわたる拘束の末、ようやく解放された。

そのとき、日本で巻き起こったのは「自己責任論」だった。「自己責任で危険な場所に行ったのだから助ける必要はない」、「国に迷惑をかけた」などの非難や誹謗中傷が飛び交った。ネットの世界に限らず、テレビの情報番組でもコメンテーターたちが、真実ではないネットからの誤った情報を元にした、批判的意見が多く語られた。
それらの場所で繰り広げられたのは、実際は「自己責任論」ではなく、「自己責任をとらせない論」だった。

一方、欧米では「イスラム国」などに拘束されたジャーナリストを各国政府が交渉により救出した例も多く、解放した政府やジャーナリスト、人道支援家に対する批判が起こることはなかった。
日本と欧米において、戦争取材にによって伝えられる情報の「価値」の違いとは何か。戦争を取材することの必要性とは何か、を考える。

内 容

戦争を取材するジャーナリストは「危険を冒して現地に赴く」という誤解がある。
職業上、「危険だからといって行かない」という選択肢は、当然ない。しかし、「危険ではあるが、複数の安全対策を取れば取材が可能だ」と判断したときには取材に出かける。同時に、当然「やはり危険だから行けない」という判断をする場合もある。

インターネットにより、外国のニュース記事や映像が見られるようになり、紛争地の当事者が発信するSNSなどで情報を得られるようにもなった。そんな状況下で、それでも日本人記者が紛争地に赴き取材をする「必要性」とは何か。
現地での取材をしなければ感じ取ることができない情報や、人々の日常、空気がある。紛争の現場を取材する意味や、取材を行なうための安全対策などについて解説を行なう。

根拠・関連する活動歴

1998年から続けている戦争取材の経験。戦争取材における、自身の「拘束」体験。
シリアにおける安田純平氏拘束時には、私自身がシリア内戦を取材したときの伝手などをたどり、トルコに赴き、イタリアの人道援助活動家やスペイン人ジャーナリスト解放交渉に関わったとされる、「拘束側との仲介ができる」という人物たちを訪ねた。

また、「イスラム国」に6か月間拘束され、政府の交渉によって解放された別のスペイン人ジャーナリストとも情報交換を続け、自国のジャーナリストが拘束された場合の各国政府の動きなどを追った。
シリア内戦の取材。日本人ジャーナリスト拘束事件についての、トルコでの調査と、シリア国内にいるシリア人協力者からの情報収集。スペインやイタリアなど、拉致された「自国のジャーナリストや人道活動家」を解放した国の関係者への調査。シリアの反体制派側支配地域で活動をするトルコの団体からの調査など。

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