企業が生産性を上げ成長を続けるために、優先的に取り組みたいのが人材育成です。しかし、いざ人材を育成しようと思っても、思い通りに進められずに悩んでいる企業もあるのではないでしょうか。
本記事では、よくある人材育成の課題やその解決方法について、多様な業種・規模の企業事例を交えて解説します。
よくある人材育成の課題
人材育成で直面しがちな4つの課題があります。以下でそれぞれ詳しく解説していきます。
1.リソース(時間・予算)不足
現場も人事も通常業務が忙しく、育成に割ける時間が少ないケースがあります。
前提として、効果を出すには中長期的な人材育成計画が欠かせません。なおかつ効率的に育成するなら、オンライン研修やOJTなどを組み合わせるなど、さまざまな工夫が必要になります。
また人材育成の優先順位が低く、十分な予算を用意できないことも考えられるでしょう。
2.育成担当者のスキル不足
育成担当者に人材育成のスキルがないことも課題のひとつです。
たとえば育成担当者が、育成対象者とコミュニケーションがうまく取れない、効果的なフィードバックの仕方を知らないという場合があります。このようなケースは、人材育成の重要性への認識が低く、育成へのモチベーションが低い企業が陥りがちです。
こうした環境では、育成対象者が業務において十分な成果を引き出せないばかりか、離職してしまうおそれもあります。
3.高い離職率
せっかく育成した社員が辞めてしまうのは、企業にとって大きなダメージです。
離職率がもともと高い企業だと、育成した社員が辞める可能性も必然的に高くなります。そのため、人材育成と同時に給与・待遇や労働環境を改善するのが、喫緊の課題であるといえるでしょう。
社員が働きやすい環境を構築したうえで、「もっとここでキャリアを積んでいきたい」と思われる企業にする必要があります。やりがいを高めるために、社員一人ひとりにやりたいことをヒアリングしたうえで人材配置することを検討しましょう。
4.育成対象者の意欲の低さ
育成対象者の意欲が低いケースもあります。
育成担当者は、対象者にどのように成長してほしいかを言語化し共有したうえで、働きぶりを褒める、仕事を任せつつ適宜サポートするなどで、信頼感を伝えるのが効果的です。成果を出している先輩社員と直に接する機会を設けても良いでしょう。
とはいえリソースは限られているので、ある程度の割り切りも必要です。
5.人材育成に関する明確な会社方針の欠如
2021年に労働政策研究・研修機構が発表した「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」によると、およそ3割の企業が人材育成の方針を定めていないことが明らかになりました。
人材育成について具体的な道筋のない企業では、育成担当者も本人も、目標がわからず不安を抱えたまま業務にあたることになるでしょう。
人材育成の重要性と目的
そもそも、企業はどのような目的で人材育成を行うのでしょうか。ここでは人材育成の重要性と主な目的について解説します。
労働人口不足時代における人材確保
少子高齢化が進む日本では、労働人口減少による人材不足が大きな問題になっています。2050年には大卒新入社員の数が現在より約2割減るといわれており、中途採用を含め、人材獲得競争は年々激化しています。
これまでと同じ母数の新入社員や、高いスキルを持つ即戦力人材の採用が難しいため、企業にとっては既存の社員を優秀な人材に育てることが、人材確保の最善策といえるでしょう。
生産性向上
企業を成長させるためには、社員の成長が不可欠です。限られた人員でこれまで以上の成果を上げるには、社員一人ひとりの生産性を向上させなければなりません。
生産性向上には、非効率な業務を改善する、時間外労働を削減するなどのメリットもあります。
グローバル化・IT化に伴うスキル需要の変化
近年では、社員に求められるスキルも変化しています。
たとえばこれまでアナログで行っていた作業をデジタルで行うことになった場合、今後はそのシステムを抵抗なく使える人材、運用や保守ができる人材が重宝されるでしょう。
またグローバル化の進展に伴い、語学力のほか、さまざまな価値観を受け入れる柔軟性なども求められています。
人材育成課題の基本的な解決策
ここからは、先に解説した人材育成課題の具体的な解決策について紹介します。企業の現状の課題と照らし合わせたうえで、解決のヒントにしてください。
経営層や管理職との課題共有と合意
人材育成に向けての課題は、育成担当者だけでなく、管理職や経営層とも共有することが大切です。経営層が「社員の教育をしても企業の成果は上がらない」という考えだと、育成のゴールが明確になりにくく、期待した効果は得られません。
いつまでに、どのような人材がどれだけそろっていればいいのか、誰もが共通のイメージを持つことで、目標が達成しやすくなります。企業や各部門の現状分析に基づき、人材ニーズを特定・整理する必要があります。
組織の現状把握・目標の明確化
人材育成でまず行うべきことは、現状の把握と目標の明確化です。
最終目標である企業の発展に向け、現状の自社に不足しているスキルや、業務推進の障壁となっている事項を洗い出す必要があります。管理職だけでなく現場の社員にも、現状業務で改善すべきと感じている点がないかヒアリングしてみましょう。
また、スキルマップ作成もおすすめです。スキルマップを活用すれば、社員のスキルや特性をひと目で把握できます。課題解決のために、どのレベルの・どんなスキルを持った人材が・どれだけ必要なのか、定量的に示すのがポイントです。
研修やOJTなど、目標達成に合う育成方法の選択
人材育成の主な方法には、以下の3つが挙げられます。
方法 | 特徴 |
研修(Off-JT) | 一か所に複数人を集めて開催する |
OJT | 上司がトレーナーとなり実務を通してスキルを習得させる |
eラーニング | システムを介して場所や時間を選ばず受講できる |
たとえば新入社員が対象なら、複数人のスキルを同時に一定レベルに引き上げる集合型研修が一般的です。実践的なスキルを身につけさせたい場合は、OJTが最適です。また、eラーニングは社員に自主的に学ばせられるのが特徴です。
最適な方法は、目的と効果、コストなどを総合的に加味して選ぶとよいでしょう。
育成計画の立案、実施・改善サイクルの継続
人材育成計画の目標を達成するには、適宜、計画の見直しやプロセスの修正が必要です。
研修などの教育プログラムを提供した後は、対象者のスキルがどの程度上がったのか確認しましょう。社員個人の行動変化を評価するとともに、プログラム自体の成果も振り返ります。
立案の後は実施と改善をサイクルを繰り返すことで、より望ましい効果が得られるようになります。
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人材育成の課題解決 企業事例4選
ここからは、人材育成の課題を解決した企業の取り組み事例を4つ紹介します。
①ダイキン工業(大阪・空調)
ダイキンの人材育成課題の1つが「DX人材の育成」でした。2017年に社内に「ダイキン情報技術大学」を設立し、AIやITを活用できる人材の育成に注力しました。
既存社員・基幹職・幹部層・役員と、階層別に分けた講座を用意し、主に座学スタイルで研修を実施しています。
また、新入社員には別枠で手厚い教育プログラムを構築。新入社員の講座1年目終了時点において、「統計検定」や「E資格」などの合格率が、全国平均を大きく上回るという成果を上げています。
②浅野製版所(東京・印刷)
浅野製版所は、DTPや広告企画を主力事業とする1937年創業の企業です。長時間労働の常態化や新人の離職などを課題に、2010年代から抜本的な組織改革に取り組みました。
その一環として新入社員教育も見直し。人事部長や配属外の関連部署まで連携し、教育効果を共有するフォロー体制を確立しているのが特徴です。
内定時には面接時の所見や採用理由もすべて本人に開示。適性検査を根拠にした最適な教育担当者の配置、人事部の成長記録データに基づく定期的なフォロー面談などを行っています。
③クア・アンド・ホテル(山梨・宿泊)
クア・アンド・ホテルは1990年代中頃、山梨県外へ新施設オープンするにあたって「人材育成の体系化されず、社員の意欲が低い」という課題に直面しました。
そこで、在籍年数や職務等級に応じて学ぶ内容を決める仕組みや、社外研修の積極導入で研修体系全体を強化。さらに「セルフ・キャリアドック」として、社員自身が10年後・20年後のキャリアプランを考える機会を整備しました。
この結果「社員の間で主体的に学ぶ風土が定着した」と同社は報告しています。
④孫の手・ぐんま(群馬・介護)
介護が必要な高齢者はどんどん増える一方、少人数のスタッフで対応しなければならないのが現状です。2010年代半ば、孫の手・ぐんまも「人材確保・入職促進」を経営課題としていました。現場では社員一人ひとりが高いスキルを発揮する必要があります。
同社は「職員が安心して働ける環境づくり」にこだわり、スタッフには充実した教育プログラムを提供。外部講師によるキャリアアップ研修や、各事業所による業種別研修、施設内保育所の用意などの施策を展開しました。
これにより未経験者も積極採用して早期に戦力化し、定着率も年々上昇しているといいます。
人材育成課題を解決するポイント
人材育成課題を解決するには、以下4つのポイントに注目し実践することをおすすめします。それぞれのポイントについて詳しく解説します。
課題に優先順位をつける
まずは課題に優先順位をつけます。育成計画やスキルを持つ人材の数など、定量的情報をすべて可視化して経営層や管理職などに共有すれば、多忙な中でもリソース配分を判断しやすくなります。
また複数の課題を整理するために、既存のフレームワークを利用するのも効果的です。
中長期的な視野で育成プランを作成する
人材育成は、始めてすぐに効果が出るものではありません。日本では終身雇用が強く根づいており、入社後も長期間在籍する人が多い傾向にあります。育成は中長期的スパンで考える必要があるでしょう。
人により成長には差があります。伸び悩みやプランの失敗も想定しておきつつ、実際に壁に直面したら、その経験をこの先どう生かすかを考えるのが重要です。
国や自治体の助成金を活用する
人材育成に取り組む企業を、国や自治体が助成する制度があります。以下はその一例です。活用できるものがないか、チェックしてみてください。
厚生労働省
東京しごと財団
アウトソーシングや専門家による研修を取り入れる
人的リソースが確保できない場合は、外部の専門コンサルティングや支援ツール、研修サービスなどを取り入れることを検討するのもよいでしょう。
社内担当者の負担を減らしつつ、社内にはない思考方法やスキルを、経験豊富な講師から学べるというメリットがあります。
人材育成の主な課題には、リソースや育成スキルの不足、育成対象者の意欲の低さや高い離職率などが挙げられます。中長期的な視点で育成プランを作成し、優先順位をつけて課題解決に取り組むことが重要です。
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