持続可能な「在宅介護」とは

高見澤たか子 たかみざわたかこ

ノンフィクション作家

内 容

在宅介護の必要条件  

「可能な限り、在宅で」というのが介護保険制度の基本であり、また国の方針でもあります。しかし施設への要望は高く、ことに大都市では新しい施設が作りにくいという事情もあって、申し込みをしてから一年や二年待つのは普通で、「五年待ち」という長期にわたるところも少なくありません。だからこそ重度の要介護者を抱える家族は先を見越した申し込みをすることになるのです。
ひと口に「在宅介護」と言っても、いろいろな条件があります。まず
(1)同居の家族がいるかどうか、あるいは介護メンバーが何人かいるかどうか、一人暮らし要介護で重介護の高齢者の場合、在宅の条件はかなり厳しいものがあります。
(2)老老介護で、介護者自身も体力に限界がある場合
(3)住環境が整備されているかどうかも在宅介護の重要なカギになる。第一に独立した老人室があるかないか、孫の部屋に祖母のベッドが同居しているということもある。次にトイレや浴室の水まわりが使いやすく、バリアフリーになっているかどうかも、大きな問題だ。
(4)認知症の有無。
(5)自力で食事ができ、トイレに行けるかどうか、つまり寝たきり状態家ではないかどうか
(6)家族関係が良好かどうか、嫁姑あるいは親子関係が険悪で、介護拒否という場合もある。
ざっと考えても以上の条件の一つでも不具合があれば在宅介護を続けるには、困難が伴うことが予想さます。在宅介護が可能なのは、介護保険の介護度で、「要介護2」くらいまでで、それ以上になると在宅では無理ではないかという専門家もいます。しかし現状では、介護保険の受給者の数を見ても、77万人の施設入所に対し3.2倍の2247万人の在宅受給者がいるわけです。


在宅介護には多様なサービスと人手が必要

ホームヘルパーにしても施設の介護福祉士にしても、大変なしごとではあるけれど、仕事は24時間連続ではありません。しかし介護をする家族は24時間土曜日も日曜日もない果てしない連続の労働です。生身の人間にとって、過酷です。まず恒常的な睡眠不足に悩まされ、疲労感やストレスが溜まっていきます。介護に気を取られいつもせかせかしているので、食事をゆっくり、しかも楽しんで食べることができません。結果的には胃腸障害をおこしやすくなります。自分でからだを動かせない人を抱き起こしたりするために慢性的な腰痛に苦しめられます。重介護になると、介護保険のサービスを目いっぱい利用しても、なお家族の負担は軽くならず、ことに主たる介護者になる妻、娘、嫁という女性への負担は必然的に重くなります。
病気や障害を持った人の生活を支えるためには、「身体介護」と「生活支援」とに二分されたサービスでは、とても支えきれません。もっと多様なサービスが必要なのです。在宅介護で家族が共倒れになる前、ケアマネージャーがどんなサービスが必要なのかを見極めて、ケアプランに地域で利用できるあらゆるサービスをつぎ込む努力しなければならないと思います。


在宅介護を支える施設

介護が十年以上続くというケースも、いまはそう珍しいことではなくなりました。長寿社会では、要介護の親を支える子世代が既に高齢期にはいっている老老介護がむしろ常識となってしまいました。介護の重層化は、要介護者の予備軍を作り出していると言っても過言ではないでしょう。子世代の第二の人生が親の介護で真っ暗なものになってしまうとしたら、家族そのものが「リスク(危険なもの)」となり、希望のない社会になってしまいます。結婚して家庭を作ることも、将来の介護問題の苦痛を考えれば避けたいと思う人たちが出て来て不思議はないでしょう。
介護者を24時間休み無しの労働から解放し、何よりも介護者が世捨て人のように世間から疎外された状態にならないような工夫がどうしても必要です。そのためには、要介護者と介護者を一時的に離すことだと思います。デイセンターやショートステイを組み合わせて、要介護者にも家を離れてせいせいとする解放感が味わってもらうことです。「施設より絶対在宅のほうがいいに決まっている」と思い込んではいないでしょうか。家族間で介護をめぐって、苛立ちやぶつかり合いが起きてお互いに傷つくよりは、ぱっと場面を家庭から施設に移す。また家がなつかしくなったら戻るという融通がきくなら、お互いに我慢もできるのです。在宅介護を支えるには、「居心地のいい施設」の存在が必要不可欠と言えましょう。それも住みなれた地域にあって、施設と家とを往復できるのが理想です。そして在宅介護でいちばん困難だと思われる重度の認知症の場合は、グループホームなり特別養護老人ホームなりへの安定した入所を考えざるを得ません。長寿社会になれば、アルツハイマー病などの発症率も高くなることは当然の成り行きです。認知症の人を抱えた家族の混乱と苦しみをどう解決していくかが、これからの在宅介護の大きな課題でもあります。

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