中国経済と日中関係は何処に向かうか?

沈 才彬 しんさいひん

多摩大学大学院客員教授

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【著書:中国経済の真実 – 2009/11/12より】
金融危機後の世界で経済が最も早く回復した中国。もはや中国という巨大市場抜きには日本経済も成り立たない。その中国の真の姿は分かりにくいが、「七つの不安」を抱えていると著者は指摘する。政変に弱く外部危機に強いといわれる中国経済の沈没は本当にないのか?―第一人者が最新取材をもとに書いた巨大市場の真実とその行方。

内 容

●中国経済が「世界のエンジン」
02年より新たな経済拡張期に入ってから、中国は世界トップクラスの高度成長が続いている。中国経済が「世界のエンジン」となっていることは確かである。
高度成長持続の結果、猛烈な経済拡張がもたらされている。第10次5カ年計画の前の年00年に比べ、05年の中国のGDPは72%増の1兆8500億�になる見通しである。人民元の切り上げ要素を計算に入れれば、中国の今年のGDPは1兆8500億�にのぼり、イタリアを追い越して世界第6位になるのは確実の状態となっている。さらに今後5年間、年率8%成長、元切り上げ幅15%で試算すれば、10年に中国の経済規模は日本の約6割に相当する3兆ドル強に膨らみ、フランス、イギリス、ドイツの3カ国を一気に追い抜き。世界第3位の経済大国になる可能性も高い。

しかし一方、当面続いている中国の経済拡張は素材、エネルギーの「爆食」を特徴とするものであり、資源や環境に配慮せず、効率も伴っていないため、その脆弱さは否定できない。「爆食型成長」は明らかに限界に来ており、「省エネ・節約型成長」への政策転換が迫られる。

●政策転換で「省エネ・節約型成長」へ
中国政府も「爆食型成長」が限界に来ていることを認識し、危機感を強めている。そこで中国政府は、資源や環境に配慮し、人間と自然の調和、経済と社会の調和、経済と政治の調和を主な内容とする「調和の取れた成長」を目指す方針を打ち出した。しかし、「爆食型成長」から「省エネ・節約型成長」に本格的に転換すれば、経済調整は避けられない。

●出番が増える日本企業も
中国経済が減速すれば、日本の対中輸出に打撃を与え、現在、踊り場にある日本経済へのダメージは避けられない。特に、鉄鋼、化学などの素材分野および造船、海運、建設機械、工作機械などの関連分野では、経済拡張期のような対中輸出の大幅増はもはや期待できない。日本企業は調整局面の到来に備え、早急に適切な対策を取らなければならない。
また、成長シナリオの転換によって、中国経済はインフレからデフレに転じ、再び国際価格の破壊要素にもなり得る。拡張期の終結と経済調整局面の到来によって、原油価格はともかく、素材価格の下落は避けられず、日本の素材メーカーの収益を圧迫する可能性が出てくる。

一方、「爆食型成長」から「省エネ・節約型成長」への転換という中国の成長シナリオの変更によって、出番が増える日本企業も少なくない。例えば、鉱工業、交通輸送、建設分野の省エネルギー技術、石炭の液化技術、石炭・石油の脱硫技術、二酸化炭素排出の削減技術、水浄化技術、汚水処理技術、海水淡水化技術などの分野である。省エネ、新エネ、環境ビジネスなどの分野は、いずれも日本の得意な分野であり、技術・ノウハウの蓄積がある。「省エネ・節約型成長」に向かい、日本企業の出番がむしろ増えてくるだろう。


●「付かず離れず」政治関係は続く
日中間の熱い経済交流と対照的に、冷たい政治関係が目立っている。ここ4年間、日中政府首脳の相互訪問が途絶えていることは、冷たい政治関係の象徴とも言える。隣人同士としては極めて不自然な状態と言わざるをえない。冷たい政治関係の背景には日中間の強い相互不信がある。小泉純一郎首相の靖国神社参拝、尖閣諸島の領有権をめぐる紛争、東シナ海の海底石油資源をめぐる摩擦、中国潜水艦の日本領海侵入、日米安保の台湾海峡への拡大などは、歴史問題に加えて、日中間の相互不信をさらに増幅させた結果となっている。
日中首脳間の相互不信はいま、両国の国民に広く広がっている。03年チチハルで起きた旧日本軍毒ガス爆弾事件、珠海の日本人集団買春事件、西安の日本人留学生・寸劇事件、トヨタの謝罪広告事件、04年嫌日ブ−イング行動、05年大規模の反日デモに示すように、中国国民の対日感情が悪化しており、発火点が低くなっている。一方、日本国内の「嫌中感情」も広がっている。

ただし、日中関係がこれ以上悪化するシナリオは考えにくい。確かに「日中衝突が避けられない」という悲観論があるが、私はその可能性が極めて低いと見ている。軍事衝突は日本の「平和主義」立国理念と中国の「平和的台頭」国策に合致せず、両国の国益を大きく損ねるからである。摩擦があっても、軍事衝突という共倒れの最悪の事態を、日中は極力に避けようとするだろう。
確かに小泉内閣の下では日中関係の改善は難しいかも知れない。しかし、近い将来、改善に転じる可能性は十分にある。ただし、日中関係が改善されても、1970、80年代の友好ム-ドの再現が難しい。時代が変わったからである。
結局、日中間の「付かず離れず」政治関係は当面続くという結論に至るだろう。

●相互依存の経済関係は変わるか
それでは日中経済関係はこれから変わるだろうか。現在、日中経済は互いにビルトインされ、相互依存、相互補完の関係を深めている。日本にとって、中国は最大の貿易相手国であり、米国に次ぐ2番目の輸出市場である。前にも述べたように、中国市場を抜きにして、日本の産業発展も景気動向も語れない。

一方、中国にとって、日本は3番目の貿易相手国と3番目の直接投資国である。日本の資本、技術、経営ノウハウは、これまでの中国の経済成長を支えてきた重要な要素の1つでもある。現在、中国に進出している日系企業は2万社以上あり、日系企業で働いている中国人従業員は200万人を超えている。日本要素を外せば、中国の安定的な経済成長も難しい。
現実的に見れば、日中間の相互依存・補完関係は今後大きく変わることが考えにくい。

ただし、流れとしては日本経済の対中依存度は益々高まり、中国経済の対日依存度は益々低下する傾向にあり、両国の力関係に微妙な変化が起きていることも事実である。
日中間の「政冷経熱」を打開しなければ、政治関係の冷却が経済関係を冷やし、中国における日本の存在感と影響力は更に低下する恐れがある。

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