私を創ったもの
~ 部落差別との出会い ~

土田光子 つちだみつこ

大阪多様性教育ネットワーク共同代表

想定する対象者

一般の皆様、教職員・PTA など、どなたでも

提供する価値・伝えたい事

差別とは何か。その現実はどんなか。そしてそこから何を学ぶことができるか。
実際に勤務した中学校での事例などを用いてお話しします。

内 容

(以下は講演で紹介されるエピソードの一例です)

実際に勤務したK中学校の話をします。
K中学校は校区の一つが丸々被差別部落。もう一つは炭鉱出身者の家など雇用団地で厳しい。
在日韓国人、朝鮮人が一割、中国人一割、部落五割、両親が揃っていないのが学年に三割。
「どうせ差別されるんやろ?」「どうせ俺なんか」と夢を持てなくなってしまった子どもたちが多く、彼らは荒れるという自己表現を選んでしまう。
しかし教師の側から見れば課題は明白で、取り組むべきことが分かるのである意味健全。
一方でイジメなどは潜在化してるから難しい。
そんなK中学校、今までにない出会いが沢山あった。
ムラ(被差別部落)の親から、「差別についての説教は先生にしてもらわんでええ、親がそれはやりますから先生は子どもたちに勉強させて」と言われる。
しかしそんな事でへこたれるK中学校の教師はいない。今まで以上に時間を割いて24時間体制で取り組むことに。

入学早々、数学の授業でのこと。プラスとマイナスの説明で、勝つ負けるという言葉で説明をしたら、「プラスはマイナスに勝てない、つまりマイナスは部落やな?」とある生徒が発言する。
その発言に対して誰も注意できる生徒がいなかった。これまでのK中学校では考えられなかったことだが、
入学早々なので分からないだろうということで、二年生以上の生徒が自主的に考えて人権教育に取り組むことに。
始めの取り組みとして先輩が一年生のクラスに入って一緒に弁当を食べながら人権学習で自分が感じたことや思ったことなどのエピソードを話す機会を持つことを始める。

フィールドワークで校区のムラへ行く。「本当に部落はマイナスか?」ムラの人たちに自由に質問をし、子どもたちにその内容を発表させる。
「部落になんか生まれてきたくなかったやろ?」「差別されて死にたくならへんの?」など躊躇いのない質問がでる。
しかし校区のムラの人たちは懐が深い。
「自分の生まれは選べないし、差別される辛さがわかるから、自分は人の足は踏まないようにしようと思える。そう心に決めて生きてきたからお陰で沢山の温かい出会いを得ることが出来た」と皆共通して答えてくれる。

子どもたちはその出会いを通じて自分を見つめ直すことができる。それが本当の人権教育である。一見問題なさそうでもどんな子どもにも必ず憂いがある。だからどんな悩みや問題にも、自分を認めて毅然として立ち向かっていける力をつけるため人権教育が大切。折れた骨はより強くなる。
そうやって人権学習に取り組んでいくと、子どもがどんどんイキイキと元気になってくる。そうなれば、親も絶対に黙るようになる。

ムラの団地で落書き事件。心を決めて落書きを消しに向かうが、いざ目の前にすると皆黙り込み黙々と落書きを消す。
学校に帰り安心したのか、「俺らは人間やないんか?」「世間が怖い・・」と泣くヤンキーたち。それを受け再びクラス皆で話し合う。そしたら地区外の子どもが、「これは自分が受けた差別問題だ」と主張。それを受けてムラの子どもたちは号泣する。
地区外の友達が自分のこととして一緒に怒りを感じてくれることで、ムラの子どもたちは癒される。

宿泊合宿で和歌山へ。そこでもムラの人たちに話しを聞いて自分の考えを発表。そしたら中国人の生徒が、「これまで中国人だとイジメられてきたので、これからは自分が中国人としてバレずに、日本人として生きていきたいと思ってたが、
今回の人権学習を通じて出会った人や多くの仲間と出会い、自分を認めて豊かに生きていけるかもと思えるようになった」と発表。

今度は校内で落書き事件。「中国帰れ 生徒一同 」と書かれていた。生徒も教師も涙が流れたが、教師は心を鬼にして生徒の傷に塩を塗って激励。
それを受けて考えた生徒たちが出した答えは、「なあ、みんな。もっと仲良くしよう。強く繋がっていこう。と。しんどい時、助けて欲しいときはちゃんと声を出そう」と全校集会で発表。大人では考えられない、極めて上品で高貴、シンプルな方法だった。

卒業目前に気づいたこと。
学校での取り組みとしんどい子どもたちの実生活には乖離があることに気づいた。子育てがわからない親のもとで絶望的に生きている子がいる。自分の親を反面教師にしてしまうような教育はよくない。
父子家庭の女の子がした学習発表。「私の母は3歳の時に私を置いて出て行った。
もちろん一緒に生きていきたかった、一緒がよかった。。。でも、母親は私を置き去りにすることで、私は冷蔵庫にある残り物で美味しいおかずを作れる能力を身につけることが出来た」と発表。

傷ついた子どもに頑張れとは言えない。
差別に強くはなるが、慣れることはない。だから子どもたちには、境遇に不満をこぼすことになく、
自分が自分であることを認め、他者を尊重することを学んでほしい。そして友達がしんどい時には、自分の憂いを話して
一緒に頑張ろうと寄り添える温かい心を育てて欲しい。

今一度、差別の現実に深く学ぶ。
温かさと厳しさのある現実世界の中で、子どもたち自身が、自分の描いた夢に向かっていく生きる力、そして命の大切さと輝きを学ぶのがK中学校の人権文化なのです。

Copyright © 株式会社システムブレーン All Rights Reserved.