多くの保育の現場において、新人保育士の定着率の低さが問題となっています。保育の仕事に憧れて資格を取得しても、現場でさまざまな壁にぶつかって離職してしまう保育士は毎年後を絶ちません。

今回は新人保育士の定着率向上を目的とした、保育士向け研修の内容や導入メリットについて解説します。また、記事の最後には、園内研修におすすめの新人研修プランもご紹介。最後まで御覧ください。

保育士1年目で訪れる離職の壁

多くの保育士が、経験年数2年に達するまでに離職の壁にぶつかることになります。

平成28年から平成29年にかけての厚生労働省の調査によると、保育士全体の離職率が9.3%であるのに対し、経験年数2年未満の場合では15.5%と全体よりもかなり高い割合となっています。

経験年数が2年以上4年未満では13.3%、4年以上6年未満では11.1%と、14年未満の場合は年数が増えるごとに離職率も低下していくことから、経験の浅い保育士ほど離職しやすいという現状が伺えます。(参考: 厚生労働省「保育士の現状と主な取組」

その要因として考えられるのが、保育の仕事に対する理想と現実とのギャップです。新人保育士の多くが「子どもに寄り添った保育を行いたい」「笑顔を絶やさずに接したい」など理想を抱いて業務をスタートさせます。しかし実際に現場に出てみると、うまく子どもと接することができなかったり、先輩保育士との人間関係や保護者対応にストレスを感じたりして、「自分の理想の働き方とは違う」という気持ちが強くなって離職につながってしまうのです。

離職率低減には新人研修が効果的

新人保育士は、大きな理想とともに、大きな不安も抱えています。そのため、新人保育士は不安を解消するために、研修や実習の必要性を感じています。
実際に、厚生労働省が2020年に発表した「保育士の現状と主な取組」によると、保育士試験合格者の7割が、保育士として働くにあたっての実習や研修の必要性を感じているという結果が報告されています。また、働く園に求める条件や重視する点についても27.8%の保育士試験合格者が「研修への参加」を挙げています

新人研修の開催が、離職防止につながっていることは他業種の調査でも明らかになっています。

HR総研が2022年に実施した「若手人材の離職防止に関するアンケート」によると、若手人材の離職率が5%未満の企業群における、新入社員向けの施策として最も多かったのが「入社直後の導入研修」、次いで「上司との定期的な面談」、その次が「入社後の定期的なフォロー研修」という結果でした。

こうした流れを受けて、現在は保育の現場でも園内研修を実施するケースが多く、職場のコミュニケーション改善や働きやすい環境づくりと併せて、若手保育士のモチベーション向上に力を入れる園が増えています。

保育士新人研修を開催するメリット

次に保育士新人研修を導入する具体的メリットについて解説していきます。

①実務と理想のギャップを埋められる

1つ目のメリットは、研修で実際の保育業務を体験することで、理想のイメージとのギャップを埋められることです。

研修には、実際の業務に取り組みながら仕事を覚えるOJT(職場内訓練)もあります。保育の仕事では子どもと楽しく遊ぶだけでなく、いかに子どもたちの健康と安全を守るかが重要であること、そのためには苦手な保護者とのコミュニケーションも欠かせないことなどを、現場での経験を通して学ぶことができます。

OJTを経験することで、新人保育士も現場での業務に必要な心構えが身に付くでしょう。

②社会人としての心得が学べる

2つ目のメリットは、社会人としての基本姿勢やビジネスマナーが学べることです。

保育士であっても、社会人としての基礎は身に付けておかなくてはなりません。特に正しい言葉遣いや身だしなみは、保護者との信頼関係を築くうえで重要な要素です。また報告・連絡・相談を怠らないようにするなど、上司や同僚と連携して働くうえでのビジネスマナーも理解しておく必要があります。

新人研修で社会人としての基本スキルが身に付けば、新人保育士も自信を持って業務に臨めるでしょう。

③保育の実務的知識やスキルを向上できる

3つ目のメリットは、保育の業務に必要な専門的知識やスキルが習得できることです。

子どもの心や身体の発達、栄養やアレルギー、衛生や安全の管理など、保育の業務には多様な分野の知識が求められます。さらに子どもとのコミュニケーションや手遊び、絵本の読み聞かせには実践的なスキルも必要です。

研修で新人保育士の知識やスキルを向上させることで、園としてより質の高い保育サービスを提供できます

④コミュニケーションスキルが向上する

4つ目のメリットが、コミュニケーションスキルの向上です。

保育士の業務では、子ども・保護者・同僚という3つの異なる関係におけるコミュニケーションスキルが求められます。保育士向けコミュニケーション研修では、それぞれにおいて心がけるべきポイントを理解し、コミュニケーションを通して信頼関係を築く方法が学べます。

特に新人保育士の場合、上司や先輩保育士、保護者との関係に悩むケースが多いため、研修でコミュニケーションスキルを身に付けることで、苦手意識を軽減できるのは大きなメリットです。

⑤仲間同士の交流が図れる

保育士新人研修の最後のメリットは、新人保育士同士で交流の機会が持てることです。

保育の業界に限らず、新入社員研修は同期との親睦を深める場としても活用されています。園内研修であれば、同期同士で職場での悩みを相談し、励まし合うことができます。また園外研修に参加した場合は、他の園で働く保育士と横のつながりが生まれ、情報交換をして、視野を広げる機会になるでしょう。

同じ新人保育士の仲間がいることでストレスの軽減やモチベーションの向上が期待でき、離職率の低下にもつながります

保育士向け新人研修の内容

次に、保育士向け新人研修で学ぶ内容について、具体的に解説していきます。

①ビジネスマナー

保育士向けのプランであっても、新人研修ではオフィスワークと同じく基本のビジネスマナーを学びます。

まずは基本の挨拶の仕方や、身だしなみ、そして社会人にふさわしい言葉遣いを身に付けなくてはなりません。正しい言葉遣いは、送迎時の保護者とのやり取りだけでなく、電話やメールでの対応、連絡帳を書くときにも役立ちます。

また研修では、時間をしっかりと守ること、報告や連絡を怠らないことといった、仕事をするうえで必ず守るべきマナーについても教わることができます。

②実務研修(OJT研修)

保育士向けの新人研修では、OJTも効果的です。それぞれの園における仕事のやり方を、実際に現場で体験しながら覚えていきます。

具体的には園ごとの一日の業務の流れ、保育計画の内容、安全管理の方法、保護者とコミュニケーションをとるときのルールなどを学びます。また子どもが怪我をしたときなどの緊急時の対応も、先輩保育士にフォローしてもらいながら実際に経験することが可能です。

③子どもとのかかわり方

子どもとのかかわり方も、新人保育士向け研修の重要なテーマの一つです。

保育士は誰でも資格を取得するにあたって、子どもにどう対応するべきかという一通りの知識を身に付けます。しかし実際の子どもたちは発達の度合いも性格もさまざまであり、自分の担当する子どもたちの特徴を理解したうえで、適切なかかわり方を習得しなくてはなりません。

特に発達支援が必要な子どもは、保育士の日々のかかわり方の積み重ねが大切です。新人保育士も園の方針に基づいて一貫した対応ができるよう、それぞれの子どもたちへの接し方を学びます。

④保護者対応

新人保育士が苦手意識を持ちやすい保護者対応についても、研修で事前に意識すべきポイントを学ぶことができます。

特に効果的なのが、研修講師などに保護者役を演じてもらうロールプレイングです。園での実際の事例に基づいた状況設定をすることで、現場での保護者対応を具体的にイメージしやすくなります。

子ども同士のトラブルや、子どもが怪我をしてしまったときなどの保護者のクレーム対応は、特に新人保育士が不安を感じやすい業務です。研修で適切な対応の仕方を身に付けておけば、現場での業務に臨むにあたって不安が和らぎます。

⑤手遊び・リトミック

保育士向けの研修では、手遊びやリトミックについて学べるプランも人気があります。

経験の浅い保育士の中には、手遊びやリトミックの時間に「子どもたちが注目してくれない」あるいは「つまらなさそうにする子どもがいる」と悩んでしまうケースがあります。

研修では子どもたちを惹きつけて夢中にさせる工夫や、子どもたちの情緒や創造性を育むためのポイントなどを教えてもらえるので、園で子どもたちと接するときにも自信が持てるようになるでしょう。

保育士の新人研修の開催期間

保育士新人研修を実施するなら、園での実際の業務をスタートする直前の3月、あるいは4月の業務開始前がよいでしょう。

まずは研修で、業務にあたる前に必要な心構えを習得しておくことが理想です。保育に対するイメージと実際の業務との間のギャップをできるだけ埋めておくことで、新人保育士の離職リスクを低減します。

また保育に必要な知識やスキルを身に付け、職場の文化や人間関係にある程度慣れた状態で業務をスタートできれば、新人保育士も自信を持って、より良いパフォーマンスを発揮できるようになります。

新人保育士におすすめの研修5選

ここでは当社スタッフがおすすめする新卒保育士向けの講演プランを5つご紹介します。


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野村恵里

旭川荘厚生専門学院児童福祉学科 特任講師
colorful communications代表

新人保育者のための自分の心を守る方法
~アンガーマネジメントで保育力を上げる~

保育に関する著作や執筆活動で実績のある講師による、新人保育士向け研修。アンガーマネジメントを通じて、保育者自身の自尊心や自己肯定感を育み、保護者や同僚との良好な関係を築く方法が習得できます。心がまえと実践的スキルの両方が身に付くプランです。


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長坂麻須美

産業カウンセラー、アロマセラピスト

即戦力になる保育士・幼稚園教諭・教師のための新人研修

マナーや丁寧なコミュニケーションは、信頼関係構築のための重要な第一歩です。講師が新人の保育士・幼稚園教諭向けに社会人としての基本的な意識、マナー、コミュニケーションスキルについて解説。社会人としての自覚が芽生える研修内容になっています。


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関口真美

せかいく代表
「子育て・教育迷子」のコンサルタント

1年目からでも保護者から“安心できる先生”と思ってもらえるために必要な3つの基本マナー

保育士・幼稚園教諭として経験豊富な講師による、新人保育士のための研修プラン。保護者との信頼関係構築に必要な3つのマナー(言葉遣い、態度、姿勢)について解説していきます。明日からすぐに使える、実践的なスキルが習得できる研修プランです。


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橋口奈生

一般社団法人 シーズ グロース コーチング 代表理事

保育士・幼稚園教諭のためのコーチング講座

保育の現場でのコミュニケーションの質を上げることで、保育士としての働きやすさが向上します。コミュニケーションと心理学を通じて働きやすい環境を作り、子どもたちと家族への良い影響を目指す研修プランです。ストレス管理やタイムマネジメントのスキルも身に付きます。


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永田あかね

人財育成コンサルタント
キャリアコンサルタント・教育カウンセラー

保育士として必要な心構え
~保育士はラッキーな仕事!

元保育士である講師が、保育の仕事における心構えを伝授するプランです。感謝の心を持ち、コミュニケーションやマナーを学ぶ大切さについて、キャリアコンサルタントが解説。保育という仕事の喜びを再認識してもらうための内容になっています。

保育士の新人研修を成功するためのポイント

最後に、保育士向けの新人研修を成功させるための4つのポイントについて解説します。

①目的・目標設定を明確にする

1つ目のポイントは、新人研修の目的と目標の明確化です。

現状抱えている課題は、園によってさまざまです。新人研修を実施する際には、まず自園の課題を解決するにはどのような人材が必要なのかを考えます。研修は新人保育士が求められる人材になるために、必要な知識やスキルを習得することを目的として実施されなくてはなりません。

さらに研修によって目的が果たされたのかを検証するため、研修参加後の新人保育士の知識やスキルレベルに明確な目標を設定することも大切です。

②研修後の効果測定、フォローする体制を整える

2つ目のポイントは、研修後の効果測定とフォロー体制もしっかりと整えることです。

研修後には、受講生にアンケートや習熟テストなどを実施し開催した研修にどれだけの効果があったのか効果測定を行うとよいでしょう。研修の満足度が高ければ、今後の研修内容をさらに発展させ、逆に満足度が低ければ、改善の余地を探します。研修にも計画➨実践➨評価➨改善のPDCAサイクルの導入は大変効果的です。PDCAサイクルを回すことで、今後より受講生のニーズやスキルにそった研修計画を立てられるようになります。

同時に、研修後のフォローも重要です。一回限りの研修では、せっかく学んだスキルや知識の定着化につながりません。研修後、アンケートや聞き取り調査などで疑問や不安に感じたことを確認して解消したり、現場で業務に取り組んで感じたことに対してフィードバックしたりと、継続的なフォローが欠かせません。
また年齢の近い先輩保育士を悩みごとなどを相談できるメンターとして配置することで、新人保育士のメンタル面もサポートし、定着率向上につながります。

③実績、指導力、スキルのある講師を選択する

3つ目のポイントは、実績・指導力・スキルをバランスよく兼ね備えた講師を選定することです。

例えば、園内でのOJT研修の場合、子どもの発達や幼児教育に関する知識が豊富で、保護者対応でも評価が高い保育士が、後輩の指導にも優れているとは限りません。新人保育士の手本となるスキルを備えつつ、指導力もある保育士を講師にする必要があります。

また外部の講師に依頼する場合には、経歴や専門的知識に加え、実際に研修を受けた人たちからのアンケートなどの評価を参考にして選ぶとよいでしょう。

④習得させるスキルに応じて効果的な研修方法を選ぶ

4つ目のポイントは、習得させたいスキルに応じた最適な研修方法の選定です。

保育士の新人研修の方法には主に、園でのOJT、園外研修、オンライン研修、e-ラーニングの4つの種類があります。それぞれ、以下のようなメリットとそれぞれの方法に適した内容があります。

研修方法の種類 特徴 適している内容
園でのOJT 【特徴】
先輩保育士が現場の業務内容を実践で教える
【メリット】
・業務に即した内容なので、実践力が身につく。
・わからない点をその場で聞きながら、理解できるため、新人保育士の不安解消につながる。
【デメリット】
・園内講師によって指導力にばらつきがでる。
・園内講師の通常業務に支障が出る。
実務、保護者対応、子どもの接し方など
園外研修 【特徴】
外部講師による研修や、協会・団体主催の研修など、園外で集合して行う研修。
【メリット】
受講者は新鮮な気持ちで受講でき、モチベーションが高められる。
・外部の専門講師によって最新かつ専門的な知識・スキルを習得できる。
・他保育士との横のつながりができる。
【デメリット】
・講師への謝礼金など研修費用がかかる。
・保育園の課題と研修内容が乖離するリスクがある。
子どもの発達、特別支援教育、マナー、リーダーシップ、保護者対応、コミュニケーション、危機管理、モチベーション、リトミック、歌遊び・手遊びなど講義+グループワーク
オンライン研修 【特徴】
web会議システムなどを介して、オンラインで参加する研修。
【メリット】
・受講者は好きな場所から参加できる。
・アーカイブ配信があれば、研修後も繰り返して視聴でき、より知識が深まる。
【デメリット】
・オンラインであるため、実践スキルが習得しづらい。
・参加者の横のつながりを構築しづらい。
乳児・幼児保育、食育・アレルギー、別支援教育、安全対策、保護者対策、マネジメント、リトミック、歌遊び・手遊びなど講義型の内容
e-ラーニング 【特徴】
あらかじめ用意された研修動画をタブレットやパソコン、スマートフォンから視聴する。
【メリット】
・受講者が好きな時間、好きな場所から視聴できる。
・園外研修に比べて比較的安価で受講できる。
・反復学習が可能で、受講者のペースで進めることができる。
・勤務外に受講できる。
【デメリット】
・自園の課題に直結した内容にアレンジできない。
・一方的になりがちで、受講者の質問に即返答することができない。
乳児・幼児保育、食育・アレルギー、障害児教育、安全対策、保護者対策、マネジメントなど講義型の内容

研修計画を立てる際には、各方法の特徴、メリット、デメリットを把握しながら、選択するとよいでしょう。

新人研修を企画して新任保育士の定着率をアップ

保育の仕事に対する理想と現実とのギャップに悩みがちな新人保育士には、研修によって実務に必要な心構えや知識を習得してもらうのが効果的です。

当社では豊富な研修プランの中から、貴園に最適なプランをご提案できます。保育士新人研修で保育士の定着率向上を実現したいとお考えのご担当者様は、ぜひ一度当社にご相談ください!


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