人材育成の手段として漠然と「何か研修を実施すればいいか」と考えてはいないでしょうか?
効果的な研修を実施するために、まずは研修の目的をしっかり理解した上で設定する必要があります。

今回は研修の定義や、目的の設定方法、種類、実施するうえでの注意点などを解説します。

そもそも研修とは

まずは研修の概要を再確認しておきましょう。ここではそもそもの研修の意味や、社内研修と社外研修の違いを解説します。

「研修」の意味や定義

「研修」とは、講義や実践的ワークを通じて、社員に業務上必要な知識やスキルを身に付けさせることです。企業研修は業務に直結する学びを得るために実施されます

研修は企業が自社の人材育成の目的に応じて企画するのが一般的です。新人研修や管理職研修など、対象となった社員には参加が義務付けられるケースも多くあります。

社内研修と社外研修の違い

企業が実施する研修には、大きく分けて「社内研修」と「社外研修」の2種類があります。

社内研修は企画から当日の運営まで、できるだけ自社リソースを中心に設計します。講師も社内人材に依頼する場合が多く、自社特有の文化やシステムを踏まえた内容を学ぶのに最適です。

一方、社外研修の場合は、外部リソースの活用が前提となります。それゆえ講師も特定分野の専門家に依頼でき、社員はより高度な内容を学ぶこともできます

企業研修の目的と目標

研修の「目的」とは「実施することで企業が最終的にどんな成果を得たいのか」です。

そして目的を果たすために具体的に達成すべき指標として設定されたものが、研修の「目標」となります。

次に、なぜ企業がわざわざ手間やコストをかけて研修を実施するのか、その目的について見ていきましょう。

目的① 社員のスキルアップや成長

社員個人に新しい知識を身に付けさせスキルアップさせることは、研修の第一の目的です。社会人になってからは実際の業務を通じた学び以外にはスキルアップの機会が少ないため、新しいスキルや知識を身に着けるために研修は絶好のチャンスです。

社員が研修を受講した結果、自信がついて新しい業務に積極的に挑戦するなど、精神的な成長も期待できるでしょう。

目的② チームや組織全体の生産性向上

個々の社員が研修で学んだ知識やスキルを現場で使い、業務で成果を積み上げると、チーム全体の生産性も大幅に向上します。

また業務効率化につながる新たなビジネススキルを獲得して主体的に動けるメンバーが増えれば、時代の変化にも迅速に対応でき、市場での競争力も高まります

目的③ 離職率の低下

研修で習得した知識やスキルを活かして業務で成果を上げたり、自身の成長を実感したりできれば、組織に対する自己効力感も育まれます。社員の意欲や職場への愛着が高まり、離職防止にもつながります

また新入社員や若手社員向けの研修は、会社への帰属意識を高める機会でもあります。研修を通して、企業理念への理解や同期メンバーや所属チームとの絆を深めてもらい、早期離職を防ぎます。

目的④ 法令遵守と企業倫理の徹底

コンプライアンス研修やハラスメント防止研修には、法令順守や企業倫理の徹底という目的があります。

近年は社内のハラスメント行為が明るみになったり、社員の不適切な言動がSNSを通じて炎上したりして、企業が社会的信用を失う事例が多く見られるようになりました。正しい知識やコンプライアンス違反などの事例を学び、こうしたリスクを排した健全な職場環境作りを目指す研修もあります。

研修目的の設定方法と具体例

研修の目的が明確でないと、適切な研修テーマや講師の選定、実施方法を決めることができません。また、もしもこの工程を誤ると、満足な研修効果が得られないでしょう。そうした問題を避けるため、まず最初に取り組むべき目的の設定方法について解説します。

1.自社の課題を洗い出す

研修によって解決すべき課題は、企業によってさまざまです。目標設定の前に、まずは自社の課題を洗い出さなくてはなりません。

課題の洗い出しでは「自社の理想の状態」と「現在の状態」を比較し、理想と合致しない点をすべてピックアップしていきます

2.現場に不足している人材やスキルのニーズを確認する

組織運営の視点で考える課題とは別に、社員が働くうえで感じている課題を解決するのも重要です。「今現場ではどのような人材やスキルが必要なのか」を社内アンケートなどによって確認しましょう

研修で学ぶ内容と、実務で必要な知識やスキルとが乖離していると、研修に十分な効果は望めません。

3.研修で獲得したい知識やスキルを定める(目標設定)

経営者視点と現場視点のそれぞれの課題を洗い出せれば、それに基づいて研修の目標を定める最終ステップに移ります。課題解決にはどんな知識やスキルが必要なのかを見定めます。

例えば「DX化の遅れ」が自社の課題で、現場のアンケートから「新しいツールが導入されても、まだ使用するのに苦手意識がある社員が多く、実態として機能していない」と分かれば、まずはメンバー全員が基本的なIT知識を身に付けることを目標に設定します。

研修目的の具体例

同じ課題の解決を目指していても、具体的な研修目的は職種や階層によって異なります。ここでは階層別に、研修目的の具体例を見ていきましょう。

新入社員研修の目的

新入社員研修の目的として多くの企業で共通しているのが「社会人としての基礎的なマナーや知識の習得」です。

また近年は新入社員の早期離職が大きな問題となっており、ベネッセコーポレーションによる「2023年度新人研修に関する意識調査」では、研修の課題を「自社への定着・早期離職を防ぐこと」と回答した担当者が34.7%に上り、上位を占めました。

中堅社員研修の目的

中堅社員研修の目的には「課題解決能力の向上」や「リーダーシップの習得」などのスキル獲得に関する項目がよく挙げられます。しかし中堅社員は現場の中核的ポジションになるため、受講者にその役割を自覚してほしいと考える企業は少なくありません。

実際にHR総研が2021年に行った「人材育成(階層別研修)に関するアンケート」では、最多32%の企業が中堅社員研修の目的を「実務のキーマンとしての役割認識」と回答しています。

管理職研修の目的

管理職研修の目的としては「管理職本人のパフォーマンス向上」や「チームの生産性を上げる部下との接し方」、さらに「コンプライアンスやハラスメントに関するリスク管理」などが挙げられます。

研修は「講習」とどう違うのか

研修は講習と混同されがちですが、実際にはどこがどう違うのでしょうか。ここでは研修と講習の意味や目的について説明します。

「講習」の意味や定義

講習とは、集まってある特定のスキルや知識を習得する場を意味します。研修が組織運営のためのもので、チームワークや帰属意識の醸成という効果も狙って実施されるのに対し、講習はあくまでも個人の能力向上に焦点を置いている点が特徴です

また資格取得の1つの条件として受講を義務付けられるケースもあります。

講習はスキルやノウハウを獲得する場

講習はあくまでも受講者個人が特定のスキルや知識の獲得のみを目的としています。研修のように「チームワーク向上」や「企業文化の醸成」などの目的をもって実施されることはありません。

これに対し、企業研修は組織や人材育成の一環として実施されるのが一般的です。

「セミナー」は研修か講習か

研修や講習によく似た用語に「セミナー」があります。セミナーは講習同様、個人のスキル向上を目的としています。

一般的には意欲のあるビジネスパーソンが、自発的に学ぶ場を指します。所属やコミュニティーの垣根を越えたさまざまな受講者が集う、オープンな形式・雰囲気が特徴です。

研修の種類

次に、研修には具体的にどのような種類があるのかを見ていきましょう。ここでは以下の4つを紹介します。

OJTとOff-JT

「OJT(On the Job Training)」は「実際の業務に取り組みながら必要な知識やスキルを習得していく」スタイルの研修です。すぐに使える実践的なスキルが身に付く反面、学びの深さは現場により異なります。

それに対して「Off-JT(Off the Job Training)」は「業務とは離れた場所・時間で実施する」研修です。学びに集中できますが、それが業務ですぐに活かせない可能性もあります。

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新入社員向け、管理職向けなどの階層別研修

新入社員や管理職など、階層ごとに実施されるのが「階層別研修」です。就任直後に実施する階層別研修では、受講者のスキルレベルの底上げを図ります。また、階層ごとに実施することで、組織から求められる役割を自覚するよう促す狙いもあります。

例えば管理職研修では、チームビルディングやコーチングなどの組織運営に必要な知識を習得すると共に、研修の場は新しい役割の重要性を認識し、気持ちを引き締める効果につながります。

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業務・職種別研修

営業や人事、接客、マーケティングなど同じ職種ごとのグループに分かれて受講するのが、業務・職種別研修です。それぞれの業務に応じて、専門的なテーマを学びます。

これらはより短期的な効果を見込んで実施するのが特徴です。例えば営業職向けの研修であれば、セールスのテクニックやターゲット業界の最新動向などを学べます。いずれのジャンルでも、受講後すぐに実務に活かせる内容が中心です。

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スキル習得などのテーマ特化型研修

スキル習得に特化した研修もあります。特に関心の高いテーマは「コミュニケーション」や「リーダーシップ」「ロジカルシンキング」などで、幅広い階層・業務に関連する内容が学べます。

また全社でDXを推進しようと考えたときは、ITスキル研修もおすすめです。一般社員向けの基本的なITリテラシーから、専門人材向けのより高度なセキュリティ対策まで、DXという目的に即した実用的な知識を習得できるのがメリットです。

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研修カリキュラム作成時の注意点

最後に、実際に研修のカリキュラムを作成するときの注意点を紹介します。効果的な研修を実施するために、以下の4つのポイントに気をつけましょう。

課題や現場のニーズに適した内容にする

研修カリキュラムを作成するときは、まず現場のメンバーにしっかりとヒアリングして「どのような内容・レベルの知識とスキルが求められているのか」を明確にしましょう。

実際の業務で活かせないスキルであったり、受講者にとって難しすぎる、もしくは簡単すぎる内容だったりすると、研修効果が極めて小さくなってしまうので注意が必要です。

講義だけでなくワークの時間を取り入れる

ただ講師の話を聞くだけでは、受講者の集中力が途切れてしまう可能性があります。ディスカッションやロールプレイングなどのワークを組み込み、受講者が自ら考え、行動を起こす時間を作るのが大切です。

またインプットしたことをすぐに演習で実践する経験により、知識やスキルが定着する効果も見込めます。

研修の目標設定と効果測定を行う

研修は実施後に必ず効果の測定を行いましょう。研修を企画する段階で「すべての受講者がITパスポートの資格取得」のように明確な目標を設定し、実際には受講者の何%が目標を達成できたかを検証します。

リーダーシップやコミュニケーションスキルのような数値化しにくい目標も、受講者本人に行動の変化を数値化して定期報告してもらったり、上司やリーダーへ評価アンケートを依頼するなどで、効果測定を欠かさず行うようにしましょう。

またその結果を元に、次回の研修内容を検討・改善してください。

研修で学んだことを実務に活かす場を作る

せっかく研修で学んだ知識も、アウトプットの機会がなければ定着しません。受講者の上司と相談して受講者本人に新たな業務や立場を割り振るなど、組織としての仕組みや各部署内の協力体制を築きましょう。

研修にはさまざまな目的や種類があります。まずは何のために研修が必要なのかをしっかり考え、研修効果を最大化するために、その目的にあったテーマや形式の研修を企画しましょう。


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