世の中が刻一刻と変化する中、業績を安定化して持続可能な組織を作り上げられるかどうかには、経営者の手腕が問われます。この記事では、現代の経営者が抱える課題や、経営層こそ研修を受けるべき理由などについて解説します。
経営者への研修がなぜ必要なのか 現代の経営者が抱える4つの課題
まずは経営者がなぜ研修を受ける必要があるのか、現代の経営者が抱える4つの課題について解説します。
①業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセス、顧客体験を革新し、企業の競争力を向上させる取り組みのことを指します。
情報処理推進機構(IPA)の『DX白書2021』によると、米国企業の約80%がDXに取り組んでいると回答している一方、日本では55%ほどにとどまりました。そのうち、中小企業になるとさらに低い結果となっており、国際的な流れから大きく遅れをとっているのがわかります。
AIやIoTなどによる技術革新は「第4次産業革命」と呼ばれており、これに対応できるか否かが世界中の企業の存続に直結する重大な課題となっています。
②グローバル化や不確実な外部環境への対応
昨今、海外企業がより高品質で安価な商品を投入するなど、競争市場はグローバル化しています。しかし経営者層の価値観がこれまでと変わらず、マネジメント方法がグローバル市場に適応できていないケースもあります。
さらに近年は、政治的・経済的変動、大規模な自然災害、パンデミックなどが発生しました。今後もこうした不確実な外部要因が企業活動に予期せぬ影響を与えることが予想されます。経営者にはそうした状況への迅速な対応も求められています。
③人材や働き方の多様化
昨今、多様なバックグラウンドを持つ人材も増えています。経営者層は多様な人材を採用するため、知識をアップデートをしなくてはなりません。
そのうえで、ジェンダー、年齢、国籍、ライフスタイルなどの多様性を尊重しながらチームを運営するスキルも求められています。
また働き方の多様化についても同じです。リモートワークやフレックスタイムなど、柔軟な働き方の導入に二の足を踏んでいる経営者も少なくありません。しかし労働力・人材不足が深刻化する中、従来の働き方に固執していると、優秀な人材の確保も難しくなります。
今後、優れた人材の獲得競争が激しくなっていきます。「前例がない」「うちの会社には合わない」などと変化を拒み続けていると、人材面でも大きな機会損失となる可能性もあります。
④経営者向けトレーニング機会の不足
日本能率協会(JMA)の『トップマネジメント意識調査2022』の調査データによると、同協会が実施した役員・経営幹部向け研修プログラムの受講者のうち「経営者となるためのトレーニングを受けたことがない」と答えた人は、6割を超える結果となりました。経営者の学びの機会は、決して十分であるとはいえません。
経営者としてビジネス知識のアップデートやスキル向上は必要不可欠です。ビジネス書やMBAや経営塾などの専門機関に通う手もありますが、多忙さゆえ、まとまった時間は捻出できない経営者も多いのではないでしょうか。、
その点、経験豊富な専門家から直接研修を受けるのは、経営者にとっても効率的な学習法の1つです。
経営者研修を企業が実施する目的
続いて企業が経営者に向けた研修を企画・実施する際の目的について、主に4つを取り上げて説明します。
目的1.経営者の知識・スキル更新
経営者は、常に高度で多種多様な専門知識が求められるだけでなく、刻一刻と変化する世の中の流れに対応して経営スキルをアップデートしていく必要があります。さらに経営者としてのスキルには、完成形はありません。
先に述べたDXや不確実な外部環境、多様化といった現実に対応できるようになるビジネススキルは、豊富にあります。
それらのスキルの習得研修を受けた経営者は、会社全体の競争力を高めるための的確な判断ができるようになるでしょう。
目的2.持続可能な経営の実現
どんなに利益が出ていても、その事業が、環境や社会に負荷をかけたうえで成り立つものであってはなりません。現代の経営者には、「企業活動が社会全体へどのように作用するか」にまで思いを寄せ、企業の行く先を示す役割が求められています。
企業規模を問わず、顧客や投資家、就職活動中の学生など、すべてのステークホルダーが、その企業の社会的意義や取り組みを重視する傾向にあります。
持続可能な経営は企業価値に直結します。サステナビリティを長期的な成長戦略の1つに組み込み、経営者自身がリーダーシップを持ってビジョンを示せば、全社的な取り組みも促進されます。
目的3.企業のリスク管理
経営者に求められるリスク管理は、市場変動や競争の激化や法規制の変更など、外部に対するものだけではありません。情報漏洩や人材流出、財務報告の不備など、内部に起因するものも多くあります。
研修では内外のリスクに柔軟かつ適切に対応するスキルを磨きます。さらに戦略的な意思決定を学び、リスクは最小限に抑えましょう。
目的4.経営陣のコミュニケーション深化
現代は社内で昇進して就任した役員だけでなく、社外から招へいされた役員も増えています。異なるバックグラウンドを持っている経営陣は、会議に集うのにも温度感の共有やスケジュール調整がしづらく、コミュニケーションが不足しがちです。
研修で同じ企業課題について役員同士が議論することで、互いの考えを知るきっかけになります。そして業務においても、役員間の連携向上が期待できます。
経営者研修の実施で組織全体に波及するメリット
それでは企業が経営者向けの研修を実施すると、組織全体にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは主に3つの点を紹介します。
ビジョンの明確化による業績アップ
研修により経営者が持続可能なビジョンを獲得し、それを経営戦略として明確に表明すると、企業の業績アップにつながります。
この成果を得るには、企業理念やビジョンが社員一人ひとりの行動にまで一貫していなければなりません。その点を理解している経営者は、社員が行動に落とし込めるビジョンや、組織全体が目標に向かって努力する文化を築くことができるでしょう。
経営陣や管理職のリーダーシップ強化
世間には感覚的な理想論だけを掲げ、社員に過酷な目標達成を強いる経営者や管理職も少なくありません。それに比べてしかるべき理論に基づいた研修を受けた経営者は、戦略的思考や意思決定能力に加え、チームに合う方法でメンバーを導けるようになります。
リーダーシップは持って生まれた才能や特性ではなく、学習によって獲得できるスキルです。社員が期待しやすい「カリスマ型リーダー」だけが優れたリーダーではありません。
例えば、民主的に現場の意見や提案を積極的に取り入れたり、信頼関係構築のため先に部下へ奉仕や支援をしたりするのも、新しいリーダーのあり方の1つです。
経営陣や管理職が、チームごとに適したリーダーシップがあるという事実を研修で学び、それを目指していくのは、社員にとっても有益です。
組織全体の課題解決
企業はさまざまな課題に直面しており、経営者はある程度はその解決を現場に任せる必要があります。しかし方針を決めるのに関与する際には、責任者とディスカッションをしながら進めなくてはなりません。意味のある話し合いにするためにも、戦略的思考や問題解決能力が必要です。
例えば顧客情報管理システムのセキュリティに、重大な欠陥が見つかった場合をイメージしてみましょう。経営陣では問題の重大性がわからず、対応費用の決裁ができないままだと、大規模障害につながることもあり得ます。顧客に不利益が生じれば、世間から責任を問われるのは経営陣です。
経営者向け研修におすすめの内容7選
では、経営者に向けた研修はどのような内容にするべきなのでしょうか。この章では、研修に盛り込むべき7つの内容について解説します。
1.経営戦略・事業立案
研修では、市場分析やビジネスモデル変革の検討など、それまでの経営陣だけでは思い及ばなかった戦略策定のスキルまで学ぶことができます。
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2.リーダーシップとコミュニケーション向上
研修ではリーダーに求められる「洞察力」や「構想力」、目の前の壁を突破する「実行力」などの考え方のほか、目標に向かってメンバーを動かすリーダーシップのフレームワークなどを習得できます。
組織の一体感や社員のモチベーションをアップするための戦略的なコミュニケーション手法も、人気があるプログラムの1つです。
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3.企業の法的責任やコンプライアンス
経営者として必ず知っておくべき税や資金、労務、個人情報保護などにまつわる法律知識のほか、法令では規定されていない倫理観や公序良俗の規範についても学びます。
またハラスメントの種類も多様化しています。コンプライアンスに関しては必ず正しく理解し、常に最新の事例や動向について押さえておきましょう。
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4.経営分析・財務管理
経営者は、勘や経験則ではなく数値データをもとに経営状況を分析し、安定的な経営を目指さなくてはなりません。財務諸表の読み解きや資金繰り管理、コスト削減策などを学べば、実際の経営にも反映できます。
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5.組織ガバナンス・リスクマネジメント
経営者は、組織を健全に運営するのに大切な2つの要素があります。1つ目は、自らの組織を管理・統制する「組織ガバナンス」。2つ目は、将来起こるリスクを想定し、最小限に抑えるための「リスクマネジメント」です。
研修で基礎から学べば、企業が社会からの信用を維持し、市場競争力や価値を高めていく素地となります。
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6.後継者育成
経営者本人のスキルアップもさることながら、企業の持続可能性を考慮すると、後継者を育成するのもまた重要課題の1つです。後継者は、経営者として会社を発展させていくための基本的な意識やスキルを学ばなければなりません。
また経営者自身が「事業継承をどのように進めるか」などについて学ぶことが大切です。
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7.リベラルアーツ
リベラルアーツでは、複数の領域の学問を学びます。それらを融合させ、複雑化した問題の解決に対してさまざまな角度からアプローチする総合力を養うものです。
いわゆる一般教養であり、その知識の豊富さは、経営者に求められる人間力にも直結します。
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経営者研修を受けるべき階層・対象者
最後に、経営者研修を受けるべき階層や対象者について、その理由とポイントを説明します。
現役の企業経営者・役員
まずは現役の企業経営者や役員です。
経営者や役員は、企業においての最高機関です。経営方針など、企業活動の中枢として意思決定する重要な役割を担っています。
次世代経営者として期待される上級管理職や中堅社員
続いては、次世代経営者として期待される、上級管理職や、中堅社員です。
これらの社員が経営陣に昇進してから経営に必要なスキルを学ぶのでは、タイミングが遅すぎます。
また昇進前に研修の参加機会を与えること自体が、「自分は会社の将来を担う人材なのだ」という自覚を強めてもらうのに一役買うでしょう。
このように、経営者や次世代経営者がビジネス環境を取り巻く変化を的確に把握し、それに対応していく経営スキルを学ぶことは、大きな価値があります。
健全かつ発展的な企業経営を維持するためにも、経営者層への研修を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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