超高齢化社会の日本に降りかかる「高齢者虐待問題」。なぜ高齢者虐待が起こるのでしょうか。

本記事では、高齢者虐待の原因と対策、そして虐待の芽となりうる「不適切ケア」を解説します。また、高齢者虐待や「不適切ケア」を起こしたり、起こさない環境をつくるために、高齢者虐待防止研修の必要性や弊社イチオシの研修プランもご紹介します。

なぜ高齢者への虐待がおこっているのか

なぜ高齢者への虐待が起こっているのでしょうか?
厚生労働省の令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果から、「在宅介護」「施設介護」の2つに分類し、原因を解説します。

原因①【在宅介護】養護者の介護疲れやストレス

在宅介護における虐待の原因は「養護者の介護疲れやストレス」によるものです。高齢者の食事・入浴などの身体的負担が大きく、精神的負担も相まって疲れの矛先が虐待につながってしまうのです。

同調査によると、養護者による高齢者虐待の発生要因は「介護疲れ・介護ストレス」(52.4%)が全体の半数以上を占めています。次いで、「虐待者の介護力の低下や不足」(43.7%)、「孤立・補助介護者の不在等」(33.3%)となっています。

さらに新型コロナウイルス感染症拡大も一因です。コロナ禍により、通所介護など介護サービスの利用頻度が下がるなどの影響が出ています。結果、在宅介護時間や養護者のストレスの増加・高齢者虐待の発生の深刻化などが確認されています。

以上のことから、在宅介護では介護疲れ・介護ストレスの高まりが虐待の主な原因であることがわかります。

原因②【施設介護】養介護施設従事者等の介護士の教育・知識・技術不足

また、介護施設で起こる高齢者虐待の主たる原因として「護の教育・知識・介護技術に関する問題」(56.2%)が第1位となっています。第2位は「職員のストレスや感情コントロールの問題」(22.9%)、第3位が「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等」(21.5%)という結果になっています。

加えて、同調査では、介護施設での高齢者虐待が、養護者によるものと比べ大幅に増えているのがわかります。原因として、教育・知識・技術の不足による無意識のうちの身体的虐待や、虐待の芽となりうる不適切ケア(不適切ケアについては後述)が増えている可能性も否定できません

特に虐待が多い施設は「特別養護老人ホーム」で、介護施設内虐待者の種類は「介護職」が8割以上を占めています。

介護職もふくめ、虐待防止には、正しい知識を学び、適切なサービスを提供するための技術力を高めることが必要です。

虐待の種別

虐待は、養護者によるものと擁護施設従事者等によるものに分類されます。以下、詳説します。

【養護者による虐待】

養護者による虐待の種別で最も多かったのが「身体的虐待」です。次いで「心理的虐待」「介護等放棄」「経済的虐待」「性的虐待」と続きます。

養護者による虐待種別 内容
身体的虐待 暴力行為、強制的行為・乱暴な扱い、身体の拘束
心理的虐待 暴言・威圧・侮辱・脅迫、無視・嫌がらせ
介護等放棄 必要とする医療・介護サービスの制限、水分・食事摂取の放任、入浴・排泄介助放棄、劣悪な住環境で生活させる
経済的虐待 年金・預貯金の無断使用、必要な費用の不払い、日常生活で必要な金銭を渡さない、使わせない、不動産・有価証券などの無断売却
性的虐待 性行為の強要、性的羞恥心を喚起する行為の強要

出典:厚生労働省 令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)

次に、家庭内での内訳を見ると、介護を行う養護者は50〜59歳、未婚の子が最多です。
特徴的なのは、虐待死亡事件の加害者が全体の6割以上が息子や夫など「男性」である点です。被害者は、女性が73%となり、息子や夫が母又は妻を虐待死させる構図が見えてきます。

【養介護施設従事者等による虐待】

介護施設における虐待は、養護施設と同様に「身体的虐待」が51.5%と圧倒的に多くなりました。しかし、特徴的なのは「虐待の程度」です。

養護者による虐待の程度は軽度が全体の約4割、中度が3〜4割であったのに対し、施設の職員による虐待は「最も軽い」が52.3%で半数以上を占めています

養介護施設従事者等による高齢者虐待種別 内容
身体的虐待
  • 暴力的行為、高齢者の利益にならない強制による行為
  • 代替方法を検討せずに高齢者を乱暴に扱う行為
  • 「緊急やむを得ない」場合以外の身体拘束

出典:厚生労働省 令和3年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(添付資料)

高齢者虐待は軽度から重度に移行していく傾向にあり、また、この調査では、まだ表面化されていないものの虐待を自覚なく行う「不適切ケア」の可能性も指摘されています。

厚生労働省の定める「高齢者虐待防止法」とは

2006年施行「高齢者虐待防止法」は、高齢者の権利を守り、養護者の介護負担を減らすとともに、虐待の早期発見・早期対策について明記された法律です。

制定の背景には、死亡率が低下し健康寿命が伸びる超高齢化社会や、高齢化率(65歳以上)が出生率を上回る「少子高齢化」が挙げられます。

また、2004年に厚生労働省が行った家庭内・高齢者虐待に関する全国調査の結果、高齢者のうち約1割が「生命に関わる危険な状態にある」、約半数が「心身の健康に悪影響がある状態」でした。さらに、ケアマネジャーなど多くの専門家や関係者が虐待への対処法に戸惑っているという実態もわかっています。

これらを踏まえ、高齢者虐待防止法は、高齢者の尊厳を守り、養護者の負担を減らすことで虐待防止増加に歯止めをかけるべく制定されました。家庭内や施設内などの閉ざされた場所における虐待の早期発見・早期対応についても定められています。

高齢者虐待防止法の目的

高齢者虐待防止法の目的は、高齢者の虐待防止・権利擁護、養護者の負担軽減策促進、高齢者虐待の早期発見・早期対応です。以下で解説します。

高齢者の虐待防止・権利擁護、養護者の負担軽減策促進

高齢者に対する虐待が深刻な状況にあることを踏まえ、高齢者虐待防止法を定め、高齢者も養護者も虐待の心配なく安心して暮らせる生活を促進することが目的の1つです。

具体的には、国・都道府県・地方自治体の責務や保護のための措置、養護者の負担軽減を図るための措置などが定められています。

高齢者虐待の早期発見・早期対応

高齢者虐待の早期発見・早期対応は、虐待の深刻化を防ぐ目的があります。
たとえば、自宅や介護施設から怒鳴り声や泣き声が聞こえたり、高齢者の衣服が汚れ、お風呂に入っている様子がなかったりなど、気になる点を発見した際は情報提供が必要です。

具体的には、民生委員・社会福祉協議会・自治会・地域包括支援センターなどの地域組織や、市町村の通報窓口などを活用します。

高齢者虐待防止研修とは

前述のとおり、高齢者虐待の発生要因は「それが虐待にあたる」と気付かず、知識の無さから起こっている部分が大きいです。そのため、公的団体や介護施設などで積極的に高齢者虐待防止研修を行い、正しい知識を習得することが推進されています。本章では、研修の必要性や、とくに重要で押さえておきたい「不適切ケア」について解説します。

高齢者虐待防止研修はなぜ必要なのか

高齢者虐待防止研修が必要な理由は、虐待の発生要因で最も多い「教育・知識・介護技術等に関する問題」を改善し、正確な知識と適切に介護サービスを提供できる技術を身につけるためです。

背景に、厚生労働省が都道府県と市町村に向け、高齢者虐待防止に関する責務と役割を求めている点が挙げられます。

都道府県に対しては「養介護施設従事者等に対し、高齢者の権利擁護の重要性や、高齢者虐待の未然防止のために必要な取組みなど先進的な事例も含めた研修機会を設ける」こと、そして市町村には「必要に応じて外部研修機会を設けるなどの支援を行うことも有効で、外部研修の機会は施設のあり方を振り返る契機となる」との内容が含まれています(参考:厚生労働省「高齢者虐待防止の基本」)。

増え続ける高齢者、養護者や介護士・ケアマネジャーなど高齢者に関わる人の知識不足などの現状を踏まえ、国は研修など教育の機会を推進しています。

とくに、養護者、介護を仕事にする人々に対して、知らずに行っているその行為が高齢者虐待にあたるという意識啓発を行い、正しく知識を習得することが必要です。

養護者や介護を仕事にする人々の仕事を減らし、組織・社会全体で高齢者虐待をなくすためには、効果的な教育方法が必要です。研修は、高齢者介護にまつわる業界全体に働きかけることができる有効な方法であり、現在需要が高まっています。

高齢者虐待防止研修で学べる「不適切なケア」とは

これまでの解説で目にした「不適切なケア」ですが、その概要と防止対策を解説します。

不適切なケアとは虐待につながる「芽」

「不適切ケア」とは、潜在的な虐待で、顕在化した虐待につながる前段階の介護状態を指します。

たとえば以下のようなものを不適切なケアといいます。

  • 高齢者自身ができる所を、時間がかかるという理由や職員の都合で介助してしまう
  • 食事を無理やり食べさせるなど、高齢者の同意無しになされるケア
  • トイレに行きたいのに後回しにするなど、本人・家族が不快感・悲しみを感じるケア
  • 意思疎通ができないために高齢者の権利が守られないケア

「このくらいはいいだろう」と介護に関する知識不足から不適切なケアを行う、同僚や上長の不適切なケアを知っていながら放置することなどは、虐待を生むことにつながりかねません。

不適切ケアを行わないことが最善ですが、不適切ケアの段階で早期に気付くことが虐待防止につながる点を理解することが重要です。

不適切なケアの防止対策

不適切なケアの防止には、組織全体の健全化が土台となります。そして、職員のストレス緩和、情報共有など組織内協力体制整備、介護の正しい知識の習得、ケアの質の向上などが大切です。

組織健全化の一環として、第三者の目をいれ開かれた組織にするなど、外部要因の改善策があります。しかし高齢者の虐待防止の観点からは、業務構造の見直し、研修体制の整備、職員教育に力を入れ知識・技術レベルの向上など、内部要因の改善が最優先事項です。

不適切なケア防止のためには、各職員が自分の役割を明確化、心身共に相互にフォローし合えるようなチーム体制、負担の多さやストレス対策など組織風土の改善など、多角的に取り組むと相互によい影響があるでしょう。
そのための意識啓発のために、高齢者虐待防止研修が必要といえます。

弊社おすすめの講演プラン

弊社では、多様な経歴や資格を持った講師による高齢者虐待防止研修を取り扱っています。今回は、特に人気のある10プランをご紹介します。


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岩崎順子

いのちの講演家 (公財)和歌山県人権啓発センター登録講師

認知症の向こう側にある心
~84才のおじいちゃんから孫へ伝えてくれたもの~

認知症になったおじいちゃんから教わった大切なこととは? 命について体験談を含めた講演が感動を呼び、全国で講演1000回を超える「いのちの講演家」が、認知症という病気の向こう側にあるその人の心の存在を伝えます。


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落合恵子

作家 クレヨンハウス主宰

母に歌う子守唄
~わたしの介護日誌~

子供の本専門店クレヨンハウス主宰。社会構造的に「声が小さな側」の声をテーマに活動され、介護に関しても美談にせず声を上げる権利の重要性を説いています。7年間の介護生活や福祉について多くのエピソードは聞く人の心に響きます。


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香山リカ

精神科医

もっとやさしく、楽しく生きる処方箋
~高齢者や障害者のこころをのぞいてみれば~

メディアに多く出演し講演も常に満席状態の香山さん。精神科医の視点からどのような心の動きがあって高齢者虐待になるのかその過程を精神科医の立場から解説。個人ではなく組織全体で、どうすればなくすことができるのかを考えていきます。


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小谷あゆみ

農ジャーナリスト フリーアナウンサー

介護の一歩は思いやり 老いをイキイキ!
~介護する側も、される側も~

7年間介護番組を務めたアナウンサーが、50組以上の介護をおこなう家族と出会い、そこで学んだ介護の極意や老後の生き方を紹介します。人生に起こるさまざまなことに前向きに楽しんで取り組む術を学びましょう。


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後藤功太

人材定着コンサルタント 介護特化型 社会保険労務士

虐待の実態から読み解く
働きやすい職場環境の作りかた

介護業界での勤務経験をベースに、介護現場の問題点の洗い出しから職員間のコミュニケーションギャップ改善まで行う講師が、高齢者虐待の現状とその背景について事例をあげて解説をします。職員一人だけにしない組織全体でできる防止策について考えます。


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岸田敦子

保健師、助産師、カウンセラー、大学教員 元 病院副院長、医療コンサルタント

高齢者虐待はなぜ起きるのか?
~虐待を予防するために学ぶ介護者のメンタルを支え、承認する視点~

高齢者虐待は起こるべくして起こっています。本講座では、虐待防止活動の一環として講演会・勉強会を主催する齋藤さんより、介護をする側の疲弊や孤独感を改善するために役立つコミュニケーションや援助方法を伝授します。


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高田しのぶ

オフィス悠々 代表 イライラの消しゴムトレーナー

介護職のためのアンガーマネジメント

“3K”環境で働く介護士の方々は、特にイライラをためやすい環境にあります。このイライラの根本にある怒りが、時として不適切なケアを生み出す原因となることも。怒りをコントロールするアンガーマネジメントを学ぶと、怒りが起きても冷静に対処できるようになります。


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中田光彦

介護福祉士 社会福祉士 ケアマネージャー

虐待をしない職員と、虐待がない職場作り

「辛くてつまらない」介護のイメージを「明るく」するべく活動中の介護福祉士が、高齢者介護の発想転換や制度の利用法など、介護に明るく取り組むための方法をわかりやすく解説します。現場の悩みに応えるための指導もおこなっています。


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中村 学

笑う門にはいい介護の会 代表 介護人材育成コンサルタント 介護現場モチベーションアッパー

笑う門にはいい介護
~虐待が抱擁に変わる時~

自身の壮絶な介護経験から「笑顔」を大切に、介護をおこなう重要性を学びます。実際に介護をされている方、介護でストレスを溜めている方に本講座によって少しでも苦しみを減らしてもらいたい。そんな思いが込められています。


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藤川幸之助

詩人・児童文学作家

支える側が支えられる人権教育
~向ける「まなざし」と伝える「温かさ」について~

一人の人間を深くみつめることで、一人の人間としてどう生きていくべきなのか。本講座では認知症の母親の介護経験を詩の朗読を合間にはさみながら伝えます。時に苛立ちを吐き出しながら認知症の人を受け入れる。人を支え人に支えられていることを学んでいきます。


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